戌井ユキの事は、詳しくは知らない。
親しい友人もいないし、教師すら、諦めている様子だった。
橘が、とある女子から聞いた話によると、1年の時から、既に孤高の人だったらしい。
出席率もぎりぎりで、2年に上がれたのは、まさに奇跡としか言いようがないとか。
戌井に初めて会ったのは、2年に上がった初日の時。
なにぶん、目立つ容姿なので、戌井は注目の的だった。
橘も、違う意味では目立ってはいたが――…、戌井の場合は違っていた。
触れてはいけないような、触れれば、壊れてしまうような、そんな存在だった。
戌井は、その日以来、ほとんど学校へは来ていない。
身体が悪いのか、それとも、ただのサボり魔なのか――…。
何にせよ、戌井の事を知る者はいない。
桃井だけが――、知っているのだ。