(自分が何故歩いているのか解らない。いや解っている、帰る為だ。)


朝霧浩仁は自分にある今の目的すら、忘れてしまう程ぼっとしていた。


特に疲れた訳でもない、ただ無心でいた。


吐息が白く霞む。


ふと、歯車が動き出したかのように頭が動き出す。


夕飯は何にするか、財布にいくら入っていたか、鍵はどこにいれたか、小テストの範囲は――。


急速に働き出す頭は先刻迄の事を過去と処理した。


夕飯の買い物を済ませ、鞄から鍵を出す。


カチャリ……ギィィ。


そしてまた彼の頭は解析を停止させた。


テーブルにちょこんと可愛らしい少女が座っている。


朝霧浩仁と同じ高校の制服を着ているが、それは彼の夏服であった。


(――何故?服…俺の?)


だぼだぼのワイシャツを着た小柄な少女にフリーズさせられていたが、解除されて、ようようと頭は動き出す。


彼は先ず彼女に1番の疑問を投げ掛けた。


「…頭の…その…何?」


キョトンとして彼女は答える。


「…?耳ですよ?」


長い髭を持ち、モコモコして、少しつんとした…所謂猫の耳がその少女の頭の上でぴくぴくと動いていた。


(…本物…?いやいやそれより…)


猫耳は先ず置いておき、彼は質問を続けた。


「なんで…ここに?」


「ん〜…」


可愛らしく首を傾げて考え出した、そして…。


「なぜでしょう?」


疑問で返してきた。


「…………どうやってここに?」


この部屋は完全な密室(?)のはずだった。


しかし彼女は…


「んん〜…どうやってでしょう?」


やはり答えず、疑問で返した。