「津本先生、どうされたんですか?」
ふと見上げると、同僚の矢崎紗織(やざき さおり)がきょとんとした表情で茜を覗き込んでいた。
「矢崎先生…いえ、大したことじゃないんです」
「そうですか?」
寝ている園児たちのことを考え、声を潜めながらの会話。
茜は苦笑いで答える。
「えぇ…ただちょっと考えごとを。大丈夫です」
幼い子供相手の仕事だというのにも関わらず、普段から見ていてもあまり表情の変わらない紗織の考えていることは茜にはわからないが
「ふーーーーん」
と頷きもせず言われて納得してくれたのだと思えるはずはなく
「あ、いえ、本当にあの…」
と焦り始めると、横を向いてしまいまるで茜の言ってることを聞く様子はない。
「?」
そっぽを向いたというより、何かをじっと見ているような紗織を不思議に思い、その視線を辿る茜。
「あ゛。」
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