伝えきれない君の声






いつものようにライブは始まり、
常連客の盛り上がりで
賑やかになる、コーヒーショップ。


昼間とはほんとに別物のよう。


でも今日は、
私の心が晴れない。


あの2人組がいるからだ。



――怖い。
そう思った。


私がマイクの前に立つと、
2人は私に視線を集中させた。


妙な心拍数と鳥肌が、
全身を襲った。



私は目を閉じ、
違う人を想像する。


そう、倉田瑞季を。


深呼吸をして、
ギターを手に私はメロディーを
店全体に響かせようと歌う。


歌は、気持ちを込めすぎても
逆に届かないことがある。


でも、薄っぺらにしたくない。


難しいけれど、
“響かせる”。


それが一番大事な気がするのだ。