伝えきれない君の声



座ってて。
と言われ、本当にベッドに腰掛けた私。


「これ、使っていい?」


そう言ってフライパンやら、
調味料やらを手にする倉田瑞季はこのマンションの台所に不似合いなほど輝いている。


格好いい人って、
どこにいても格好いいんだな。


なんて、考えたり…




「1人暮らし、だったんだね。」

手を進めながら、
私に聞いた。


「はい。て言っても、去年の春からだから…ちょうど1年くらいです。」


「そうなんだ。」


質問はそれきりで、
身構えてしまった自分が恥ずかしい。



彼の広い背中を見て、
聞いてみたくなった。


――昨日、何があったんですか?

――なんであの時間に雨の中いたんですか?


――あの女性は、恋人ですか?



……聞けない。
そんなこと、何一つ聞ける勇気はない。