伝えきれない君の声



また、誰かが歌っている。
今度は、男性のようだ。


「あ、コイツ、オーディション受ける人です。」


ぼーっと歌声に耳を傾けていた私は、菅原さんの言葉を全く気にしていなかった。


「…おい!栗田!」


「え、あっ、はい!」


慌てて振り向く。


そこには、
私が一番会いたくない相手が立っていた。



「あら、久しぶりね。」


「あれ?知り合いなんですか?
波多野さんと栗田。」


波多野、友里…
やっぱり来てたんだ。


「知り合いていえば、知り合いよね。
まさかあなたがオーディションを受けるなんて思わなかったわ。」

にこりと笑う。
なんて艶やかなんだろう。


私は何も言えず、俯いた。


「栗田、どうした?」


「いえ、何も…」


「きっと緊張してるのよ。
菅原くん、彼女の出番はいつなの?」


「あー、確かトリっすね。」


………トリ?


「俺が順番組んだから、間違いないですよ。」


「ちょっと、す、菅原さん!何でよりによって最後なんですか?」

私は顔を上げ、
思わず声をあげる。