俺が無言でバッターボックスに立ち、少女の姿を見つめていると、やがて少女は視線を俺からホームベース奥のバックネットに移し、ゆっくりと振りかぶった。

 洗練された美しいフォーム。腕を目一杯伸ばし、他人との身長差をもろともしない高いリリースポイント。

 そこから放たれるストレートはお世辞にも速いとは言えない。けれど、まるで機械のように真っ直ぐに振り下ろされた腕と、手首のしなりにより、放たれたボールには実に見事なバックスピンがかかっている。

 綺麗なバックスピンがかかったストレートとはつまり、日本では良とされるノビのあるストレートのことだ。

 どんなに速いストレートでも、放たれてからバッターの手元に来るまでの間にいくらか失速してしまうのだが、彼女のストレートはそれが限りなく少ない。

 実際の急速はともかく、体感速度は中学生の男子のものと比べてもまったく引けをとらない。

「すごい……な」

 思わず言葉が漏れた。

 あんな華奢な体格で、あんな細い腕で、ここまで完成された速球を投げられるようになるまでに、一体どれほどの数を投げ込んだのか、想像もできない。

「あの……」

 感嘆の余韻に浸っていると、いつの間にか目の前まで歩いて来ていた少女に声をかけられた。

「新任の教師の方ですか?」

「うん、今年度からこの学校に赴任することになったんだ。教員実習を終えたばかりの新米だから、色々迷惑かけちゃうかもしれないけどよろしくね」

 そう言って握手を求める手を差し出してみるも、少女は戸惑っているのかその手を取ろうとはしない。初対面で馴れ馴れしかったかな。