静寂に包まれた白い空間。高校三年生になる俺、笹沼謙吾(ささぬまけんご)は患者用の黒い回転式の丸椅子に腰をおろし、対面に座る白衣の男の様子をうかがっていた。

 白衣の男……もとい俺の担当医となっている年配の整形外科医(名札には『新子安』とある。実に珍しい名前だ)は、ホワイトボードに張り出されたレントゲン写真を眺めながら、難しい表情をしている。

 あのレントゲン写真は言うまでもなく俺のものだ。それも野球部員である俺にとっては心臓の次に大切な部位とも言える肘の骨。

 専門知識がない以上、写真を眺めてみてもどこがどうなっているのか、詳しいことは俺にはわからない。ただ一つわかることは、今でも肘の辺りを走る激痛が告げる『怪我をした』という現実だけ。

 完治までにはどれくらいかかるのだろうか。今は五月、せめて一ヶ月ほどであれば、リハビリの頑張り次第では最後の夏大会までには間に合うかもしれない。

 頼む、一ヶ月程度であってくれ。

 そんな俺の一心の願いは…………次に発せられた担当医の言葉によって砕かれた。

「完治までには少なくとも一年。その後のリハビリ次第ではまたボールを投げられるくらいには回復するとは思いますが……全力投球は無理でしょうな」

 全力投球ができない。それは、『投手』のポジションに席を置いていた俺にとっては、死刑宣告と同じようなものだった。

「うそ……だろ」