このタオルは、その出来事が夢ではなく現実だった証拠。

 そして何より、バス停の他人から、顔見知り程度には昇格できた証でもあった。


 このタオルはチャンスだ。

 顔を見れた。

 声を聞けた。

 次にステップアップするのに必要なのは、


「名前……」


 私のつぶやきは、どしゃぶりの雨音にかき消えた。



(2)声を聞く(完)