「なにが楽しいんだ?」

聞かれたのは、普通の優等生だった私が初めて、保健室に行くふりをして屋上に向かった時だった。


こなければ良かった。


心底そう思った。

普通に生きる事を望んだ癖に、ちょっと気分を変えようとした罰だ、と。


屋上にいたのは、この学校でもっとも有名な天才児でもあり、問題児でもある「ハル」だった。


「ハル」の名前が「ハルト」だったか、「ハルオミ」だったかなど覚えていない。

どちらにしろ、私には一切関わりのない人物だと思っていたのだから。


まさかその「ハル」がタンクの陰で携帯をいじる私に話しかけてこようとは。

「ハル」の左耳のブルーのピアスが、太陽に反射した。


「何がって言われても」


私は携帯のボタンを押すのをやめた。

突然現れた有名人に話す事などなかった。

しかも第一声が「何が楽しいの?」では答えようもない。