ぱこーん、という小気味いい音とともに俺の頭が軽く横に揺れた。
「!?いって、なにすんだよ先生??」
「ばーか、んなこと考えるだけ時間の無駄。」
「でも!大事なことだろ!もしあかりが俺とハルの間で苦しんでるなら」
「もしそうならお前、神埼を多賀城に譲ってやれんのか?」
「………」
「ったく、ほんっと馬鹿だな、お前。」
先生は、はぁっと大きくため息をつくと、真剣な顔で俺の方をみつめた。
「お前に言うことは『信じろ』の一言につきるな。」
「?信じろ、ってあかりを?」
「そうだ、まず神埼のお前への気持ちを。
それからもうひとつ、自分を。」
「自分?」
「もっと自信持てってこと。
おまえさ、日頃あんだけキャーキャー言われてるくせに、なんで神埼の事となると急にヘタレるわけ?」
俺はふいと顔をそらした。
「そんなの、俺だってわかんねーよ。
でも、あいつが他のやつと一緒にいるの見るだけで、なんかすげー不安になるんだ。
だってあいつ可愛いし」
「まあなぁ。隠れファンクラブあるらしーぞ。」
「男への警戒心も薄いし。」
「あ~薄いっつーか、ゼロだろゼロ。
今時幼稚園児だって、あいつよりかは警戒心あるだろ。」
「先生!」
「あ、すまんすまん。」
「とにかく俺、あかりが他のやつといると、それだけで不安で仕方なくて。
いっそあかりの目に俺だけしか見せずに、ずっと俺の側に縛り付けとければいいのに、なんて。
はぁ。俺、独占欲まるだしだな。
そのうえあいつの気持ち試すような事までして、まじて最低だ。」
沈黙のあと、先生はタバコを消すと、
俯いていた俺の頭にぽんと手を置いた。
「まあな、惚れた女を独占したいって思うのは人として当たり前の感情だ。特にお前らは色々あったから、お前が不安になるのもわからなくは、ない。
だけどな、独占と束縛は違う。
それと、不安だから信じられないってのも違う。
不安だからこそ、信じてみろよ。
神埼を信じて、俺はこいつの彼氏なんだって自信を持って神埼にぶつかっていけよ。
俺から言わせりゃ、今のお前らは自分が傷つくのが怖くてお互いに逃げてるただのガキ。
なあ嘉瀬、本気で神埼が好きなら、傷だらけになったって神埼を信じてみろよ。」
先生の言葉に俺が顔をあげると、俺と目があった瞬間、先生はにっと笑った。
「それで神埼がもし他の男を選んだなら、そのときは潔く身を引けばいいじゃねーか。こっぴどく振られたら諦めもつくだろーが。」
「……そうだな。
サンキュ先生、やっぱあんたに相談してよかったわ。」
「だろ?」
はは、と大和先生は笑った。
「じゃあ、俺いくわ。」
「おう。気ぃつけて帰れよ。」
再びタバコの火をつけた先生に、くるりと方向転換すると、「いい忘れてたけど」と、後ろから大和先生の声がきこえた。
「神埼がお前を好きなんて事、誰がみたって一目瞭然だぞ?」
ばっと振り返ると、先生はにやりとした笑みを浮かべた。
そして「はやく行け」という仕草をすると、タバコに手を移した。
俺はそんな先生に軽く会釈をすると、そのまま駆け出した。

