花菜はハンカチを取り出すと、止めどなく涙が流れるあたしの頬にそっとあてた。



「なっちゃんに、ちゃんと気持ちを伝えなさい。」


まるで、母親が泣いた子供を諭すような口調だった。そして、花菜はあたしの頭をよしよしと撫でてくれた。

花菜の手は、どうしてこんなに優しいんだろう。あたしはいつもこの華奢な手に助けられている。





「あたし、ちゃんとなっちゃんと話すね。
花菜、ありがとう。」


「いいってことよ。

それと、多賀城君にも謝らなきゃね。お祝い計画がメチャクチャ。ケーキまで辿り着いてないし。」


「う…!ほんとに…反省してます。」




あたしの言葉に、花菜は「うん」と頷くと優しく微笑んだ。そしてそのまま、あたしが落ち着くまで、ずっと一緒にいてくれた。









喫茶店をでた別れ際、花菜は悪戯っぽくニッと笑いながら言った。

「あかり、しっかりね!
土台がしっかりしてなきゃ、からかって遊べもしないしね!」


「も~あたしで遊ばないで」


ぷうっと膨れてみせると、花菜はさらにニヤリと笑った。


「あかりは恋愛偏差値低いからな~
あたしがビシバシ鍛えなきゃね。」


花菜、その笑顔、誰かに似てるよーな?

ふと脳裏に浮かんだサディスト顧問の悪い笑顔をぶんぶんと振り払っているあたしを見て、
花菜はふふっと優しく微笑むと、「じゃね!明日がんばりな!」と、帰っていった。




花菜、本当にありがとう。
過ちをちゃんと叱ってくれる、あたしの自慢の親友。

花菜の背中を見送ると、あたしは携帯の待ち受け画面を開いた。
そこにうつっているのは、付き合いはじめの記念に、あのとき屋上で撮った、二人の写真。
一番大好きな、青空みたいななっちゃんの笑顔。






明日、ちゃんと彼に伝えよう。

こんなにも、あなたを愛していることを。