コンコン
「どうぞ」
がらりとドアを開けると、本を読んでいたハルくんが顔を上げた。
そしてあたしの顔をみると、その顔がふわりと綻んだ。
「よかった。元気そうで。
学校、行けるようになったんだね。」
「あ…うん。」
あたしは自分の制服を見てから、頷いた。
そっか、あたしの事、なっちゃんにきいてたのかな。あたしのせいで怪我させて、しかも余計な心配までかけちゃったな。
「あの、ハルくん」
「ストップ」
「え?」
言葉を遮られハルくんを見ると、彼は少し困ったように笑った。
「『ごめんなさい』なら、いらないから。」
「あ、でも」
「いらない。
あれは神埼が起こしたことじゃないし、
俺が怪我したのはおまえのせいじゃない。
俺がしたいようにしただけだから。」
「でも」
あたしはベッドの上のハルくんを見る。
肩から背中にかけて、鎖骨に入ったヒビを固定するための固定材を巻かれ、
それ以外は大した怪我はないとはいっても、あちこちに見える青黒い痣。
何本もの重たいポールをその体で受け止めたのだ。これくらいの怪我ですんだのは、不幸中の幸いだった。
もし頭を直撃でもしていたらと思うと恐ろしい。
あたしを庇ってこんなことになったのに、謝るななんて、無理だよ。
「あかり!そんな顔すんなって。」
突然、なっちゃんから頭を小突かれた。
びっくりして見上げると、なっちゃんは今度はあたしの頭にぽんと手を置いた。
「『ごめん』じゃなくても、言うことあるだろ?」
あ…!
あたしはハルくんの方に体を向け、ぺこりと頭を下げた。
「ハルくん、本当にありがとうございました!」
「いえいえ、どういたしまして。」
顔を上げたあたしの目に映ったのは、
破壊力抜群の、あの眩しいくらいの笑顔だった。
思わず赤面したあたしは、なっちゃんの視線を感じ慌てて頬を押さえた。
「あかり…」
じとりとしたなっちゃんの目。
「あれれ?この病室ちょっと暑くない!?」
慌てるあたしはさらに真っ赤っか。
そんな様子をみてハルくんがぷっと吹き出した。
それを見て、あたしも笑う。
笑うハルくんを見ていたら、胸の支えが少しだけ取れた気がした。

