きみ、いとほし〜幕末純愛抄〜

ドンッ


「きゃっ。」


前も見ずに店を飛び出した私は人にぶつかってしまった。


「イタタ。申し訳ありませんでした。」


前を見ていなかった私が悪いので、ぶつかった人に謝った。


「貴様のせいで着物が汚れてしまったではないか。女子の分際で。」


私がぶつかった人物は運悪く、ガラの悪い浪士のようだった。


「そこへ直れ。貴様なんぞ斬り捨ててくれる。」


そう言いながら浪士は刀を抜いた。


私、ここで死ぬの?


私の周りでは、いつの間にか人だかりができ、騒がしくなっていた。


浪士が何か言っていたが、もう、私には聞こえなかった。


ニヤリと浪士が笑いながら刀を振り上げた。


私は恐怖のあまりギュッと目をきつく閉じた。