きみ、いとほし〜幕末純愛抄〜

「では、トシ。行ってくる。」


翌朝、大阪へ向かう人たちの見送りをしていた。


「ああ。屯所は俺に任せとけ。近藤さん、気を付けてな。」


「皆さん、お気を付けて。」

「何やら見知らぬ女子がおるではないか。娘、名は何と言う。」


急に後ろから知らない声が聞こえた。



「チッ。出やがったか。」


隣でぼそっと言いながら、私を背に隠すようにし、土方さんが言った。



「この娘、三月程前から我々、前川邸の人間の世話をしてくれている、宮下華です。」



「ふむ。わしは土方君ではなく、その娘に聞いておるのだが。」


鉄扇で口元を隠しながら、声の主・芹沢鴨は言った。


「この娘は人見知りをするので、今日のところは勘弁してやって下さい。芹沢さん。」


軽く私を近藤さん達の方に押しながら土方さんは言った。