きみ、いとほし〜幕末純愛抄〜

黒谷から屯所への帰り道、松平公の命令のことを考え、近藤さんと俺は口を開くことなく、無言で歩いていた。


「なぁ・・・トシ。」


突然、近藤さんが口を開いた。


「・・・なんだ?」


近藤さんの言いたいことは何となく分かる。


「芹沢さんを殺すしか道は無いのだろうか?」


やっぱりな。


近藤さんは浪士組結成の時のことで芹沢に恩義を感じている。


だから、その芹沢を殺ることに踏ん切りがつかねぇんだ。


「松平公からの命令なんだ。殺るしかねぇだろ。それに今までどれだけやつに煮え湯を飲まされたか忘れたのか?」


俺はなるべく怒りを押さえ、近藤さんを諭すように言った。


「しかしだな・・・」


「もう、松平公からの命令が下っちまったんだ。俺たちの主は松平公だ。もう、どうしようもねぇんだ・・・」


そう。


松平公の命令が下った以上は芹沢は殺るしかねぇ。


それしか方法はねぇんだと俺自身にも言い聞かせるようにして、近藤さんに言った。


「心配すんな。近藤さんの手は煩わせねぇ。汚れ役は俺がやるさ。」


「トシ・・・」


近藤さんは何か言いたそうだが俺は目で制した。


汚れ役は俺だけで十分だ。


俺は再び固く決意しながら、屯所へと帰った。



〜土方side・END〜