「じゃあ、そろそろさよならね」

会話が途切れたのを見計らって、ゆりがそう言った。

「行っちゃうのか」

「そりゃそうよ。もともと私はこの世界の住人じゃないし」

「…」

「それに、結構疲れるのよね。実体を保っているのは」

「そうか」

ゆりの姿が透けて、後ろの壁が見えていた。

「俺は償いのために何をしたらいい?」

「さっきも言ったでしょ。幸せになって。私がしんに望むのはそれだけよ」

「分かった。約束するよ」

「本当はしんのことずっと見守っていたい。でもしんも窮屈だろうし、奥さんにも悪いから、これっきりにするね」

ゆりはにっこり微笑むと、すうっと空気に溶けて消えた。

真也は手の中の缶を見つめた。

さっきは軽く感じられた空っぽの缶が、どっしりと存在を主張していた。

缶には、ゆりと過ごした日々の思い出、ゆりへの想いが詰まっていた。

真也はそれをぎゅっと胸に押し抱くと、静かに泣いた。

先程とは違い、温かい涙が頬を伝った。