「放課後は斎藤先生と二人かぁ」
結衣はなぜか晴紀に向かってわざとらしく呟く。
それに気がついた晴紀は携帯から顔をあげて振り返った。
「なに、田中さん」
「あら、ごめんなさい。つい美紗が心配になっちゃったから」
心配といいつつも、なぜそれを晴紀に言うのかわからない。
私が心配なら私に言えばいいのに。
「結衣?」
しかし結衣は私を見ずに晴紀を見ている。晴紀の反応を待っているようだ。
どうしたのだろうか。
その様子に晴紀も首を傾げた。
「なんで俺に言うの? それに相手は先生だよ? 心配って。変な田中さんだなぁ」
晴紀は笑う。
晴紀の言う通りだ。なにが心配なのかさっぱりわからない。
すると結衣はニンマリ笑って私を見た。
「だって先生、美紗がお気に入りってかんじだもん」
「ええ! それはないよ!」
お気に入りって、なにが!?
気にかけてもらってはいるけど、気に入られているようには見えない。
斎藤先生は誰にでも穏やかに優しい先生だ。
しかし、結衣の観察レーダーは違うようだ。
「そんなことないよ。斎藤先生、いつも美紗を優しい顔でチラチラ見てるもん。美紗と話していると嬉しそうだし。あれは気にしてるって言うより、気に入ってるわね。私の観察力は見逃さなかったわ」
「それはないでしょう~」
「いーや、あるね」
何を根拠にと思うが、結衣の中では確信めいているようだ。
「このこ、そういうのに疎いでしょ。だから心配なの」
再び晴紀を見て言う。だからなぜそこで晴紀に言うのか。
晴紀をチラッとみると、無表情でこちらを見ている。
「……だとしたら、先生も悪趣味だな」
低い声でボソッと呟いた声はかろうじて私たちに聞こえるかくらいの裏の声で、それに憤慨したのは私だけだった。



