「そいつ誰?」
後ろから、低くひどく不機嫌な声がした。
あっ!
しまったと、声のほうを振り返ると誰よりも待ち望んでいた男の人がリビングの入口に寄り掛かって腕組みしている。
そこにはずっと会いたかった人の姿。
でもこのタイミングでは会いたくなかった。
だって、なんだかその顔が凄く怒ってるのだから。
自然と顔がひきつる。最悪だ。
「お、おかえり。晴紀」
「そいつ誰だよ」
私の挨拶を無視してセリフを繰り返す。
説明をしようと口を開きかけたとき、由季が晴紀の方へ歩いて行った。
「君こそ誰だ」
「美紗、答えろ」
晴紀は由季を無視して私に説明を求める。
「その人はただの幼なじみで、今はお父さんの秘書をしてるの。様子を見に来てくれたみたいで……」
「ふ~ん」
しどろもどろになりながら簡潔に説明をするが、晴紀の表情は固い。
そりゃそうだよな。晴紀にしてみれば、誰こいつ状態だよな。
由季は晴紀をじっくりみたあと、口を開いた。
「君は誰なん「あ! 時間だよ、由季兄ぃ! またね、元気でねっ! バイバーイ!」
私は由季がこれ以上面倒になる前に、言葉を遮り、玄関まで押し戻した。



