「待てやこらぁああああああああ!」

通りに響く怒声。

男は追跡者であった。

追っているのはつまらない相手だ。

パッと見でも分かる明らかな脂ぎった肥満体型。

走る度に揺れる腹。一般人の太股ぐらいある二の腕。あごも二重になっている。

頭にはゴムバンド。指貫革手袋をした手で眼鏡を直す。

装備も充実嬉しいな。

「おらぁ、そこのキモヲタァアアアアアア! 観念して止まれやぁあああああ!」

男は人通りの多い往来でリュックサックまで背負った肥満男性を全力で追いかけていた。

なぜならそれが彼の使命だからである。

その異様さは周囲の人間から無遠慮な視線を集め、進路上の者は跳んで避けるほどだ。

「逃がすかぁあああああ!」

裏道に入ろうと路地を曲がった肥満男に続いて追跡者も左折。

50メートル先に男を視界に再度捕らえた。

華やかな秋葉原の街も、一歩道を外れれば、人通りのない裏街道なんていくらでも存在する。

肥満男はその土地勘で追跡を振り切るつもりだったのだろう。

だが、生憎この秋葉原で追跡者の手を逃れたものはいなかった。

「逃がすか、デブボケカスヘタレヲタデブ野郎ぅうううううう!」

追跡者がそう言う以上、逃げられないのだ。

その瞬間、急に肥満男が立ち止まった。

観念したのか? そう追跡者は考えた。

肥満が振り替える。

「デブって言ったなぁあああああ! それも二回もぉおおおおお!」

肩を震わせ(怒りか息切れかは分からないが)、青筋を浮かべて怒鳴った。

額から汗が飛び散る。

追跡者は肥満の背景に雷を見た気がした。

「デブって言う方がデブなんだ! お前なんてぶっ飛ばしてやる!」

その瞬間、四方に棒状の機械が現れ、お互いを赤い光線で繋ぐ。

戦いのリングだ。

ちなみに追跡者は身長179cm、体重56.8kg。どう頑張ってもデブとは言えなかった。