大翔が好んで使用する知覚強化は、脳の知覚容量を強化して、認識能力を極限までアップさせる魔法だ。

だが、男はこのタネを知らない。

未知は恐怖となり、恐怖は混乱を呼ぶものだ。

男はパニックを起こし、目を見開いて大翔を凝視する。

恐れの籠ったその視線に対して、大翔の表情は冷ややかだった。

《魔法選択》

大翔の脳内に選択画面がイメージされる。

《聴覚強化解除。思考加速選択》

新たな魔法を選び、大翔は一度深呼吸。

適度な高揚感が体を痺れさせるのを感じる。

大翔の口角はつり上がっていた。

「さて、反撃開始だ!」

気合いのこもった叫び声。

大翔の声に男も反応する。

先程よりも速く、力のある一撃。

大翔はやはりかわして見せた。

だが、男も止まらない。

既に大翔に回避能力があると実感させられているのだ。

だから、自分の防御力を頼りに、息もつかさぬ連撃を繰り出す。

体を中心に竜巻の如く両拳が唸った。

触たものを一切合切砕く暴風。

ただの一撃で勝負を決める必殺の力。

だがしかし。

それでもしかし

男は勝利を掴めなかい。

「うわぁあああああああ!」

堪らず、叫び声を上げる男。

その顔に浮かぶ表情は、焦燥・恐怖・憤怒。

理不尽な現状への感情だった。

無理もない。

頭に当たれば、首がなくなる。

腕に当たれば、腕が千切れる。

足に当たれば、足がもげる。

体に当たれば、体が砕ける。

その攻撃が……。

その拳が……。

その一撃が……。

当たらない。