藤城さんの呟きを聞くと、俺はなんだか寂しい気持ちになった

できるなら…殴ってやりたかったな

ただ警察に捕まるだけじゃあ

俺の気持ちが満足しないよ

「ちょ…待て! 俺は刺したが…、こいつらに金を握らされたんだ!」

松浦を刺した男が、謙蔵を指でさした

俺は鼻で笑うと、腕を組んで失笑した

「…んなこたぁ、わかってんだよ。馬鹿じゃねえの?」

俺が呆れたように、口を開くと男が「え?」と声をあげた

「謙蔵たちたちだって、このまま無罪放免ってわけじゃねえよ。殺人教唆となるか…殺人未遂教唆となるか…の瀬戸際なんだよ」

俺が言葉に、謙蔵が「は?」と首を傾げた

「松浦を殺すように指示したんだろ? 松浦の元カノを殺したこの男を見つけ出して、金を握らせて…耳元で囁いたはずだ。『真央』がお前から離れたのは松浦という男のせいだ…と。殺したほうが良い…ってな」

「そ、そんなことは…」

俺は椅子を、謙蔵に向かって蹴り飛ばした

「言ってねえのかよっ。俺はな、嘘は大嫌っいなんだよ! 惚ける奴も、犯罪に手を染める奴も…金の力でどうにかできると思っているヤツ…もな。全てが嫌いだ」

俺はワインのボトルと掴むと、謙蔵の頬の横すれすれに投げた

ボトルは、壁に当たってガシャンと割れて、中に入っている液体が絨毯に沁み込んでいく

「何も悪いことをしてない…松浦が死にそうになってて、ただ松浦が好きになったさくらが心に傷を負って。自分の娘に、あんな深い悲しみを背負わせておいて、優雅にワインなんか飲んでじゃねえよ。くそ親父が」

「勇人君」

藤城さんの落ち付いた声が、俺の背後から聞こえてくる

「こんな下衆に何を言っても無駄だよ」

藤城さんの言葉に、俺は鼻で笑った

「確かに。藤城さん…俺が暴れたくなる前に、こいつらを連れて行ってよ。こいつらを見ていると、殺したくなる」

「君を犯罪者にしたくない」

「…ああ」

俺は部屋の隅に大股で向かうと、壁を思い切り殴った

痛みが、手の甲に伝わってきた

…松浦、早く起きろよ

この怒りを…お前の笑みで沈めろ