放課後国語資料室に呼び出された私は、楽しそうな部活に向かう愛歌を羨みながら其処に居た。勿論彼奴は来ていない。いつものことだからもう慣れたけど。大方女生徒に絡まれているんだろうな、と予測して深緑のソファに腰掛けながら待つ。ああ、どうして私はあんな奴の彼女なんだっけ。
 「お待たせ、マイスウィートハニー。」
 「うわあああ!」
 つまらないことを考えていたら急に後ろから肩を抱き締められて。本当に吃驚して、奇声をあげると同時に羞恥で顔が真っ赤になった。その後は散々笑われて、からかわれた。
 今日の授業も思いっきり仏頂面だったなー、だってつまんないから、隣で長沢笑ってたな、愛歌は阿呆だから。何て他愛も無い話を彼奴が淹れてくれた紅茶片手にしていた。出海はコーヒーだけれど。どうしても整っていて意地悪な表情をするその顔や、細長くてもしっかりした手、無造作に組まれた足に目が行ってしまう自分を病気だと罵ってやる。でも恋の病じゃないことは確か。
 「学園祭どうすんだ?部活で何かやるんだろ?」
 此の学校ではもうすぐ学園祭が行われる。体育祭では競技は勿論のこと、応援合戦や横断幕の評価も有る。一方の文化祭では、学年毎に内容の異なるクラス展示も有るし、文化部だけになるが部活展示も有ると言った風。因みに私のクラスは1年生は教室展示というルールに乗っ取って、アニマル喫茶なるものを開くらしい。メイドの時代はもう終わったと誰かが力説していた。
 私の所属する手芸部では、毎年ファッションショーを行う。其は年毎にテーマを変えて、今年はウェディングドレスらしい。1年生にとってはハードルが高過ぎると思う。それに言ったら笑われそうだから、内緒、と答えておいた。
 「俺の権限で凜は絶対に猫科の動物だ。」
 「何で猫…。」
 「うわ、可愛いだろうなあ。早く見てえな。」
 無視しないで!何て、私は言えないのかも知れないけれど。私は裏方予定だからね。目の前でニヤニヤと笑う其の顔に言葉を失ったからどちらも結局は同じ。
 紅茶に口を付けたら、徐に彼奴が私の隣に座って、肩に腕を回してきた。勝手に染まる私の頬。お願い、気づかないで。
 「…顔、真っ赤だぞ?」
 顔を態々近付けて彼奴が言うものだから、身動きも出来なくて。そのままされるがままにキスされれば、私はいつの間にか資料室を飛び出していた。