【短】ハッピーバレンタイン





途中止めることもできず、走らされるままに何故か春川さんちに



春川さんの家は、ぼくが夕方走っている土手から近い



毎日通っていた道沿いに建っていて、見たことのある家だった



「なぎさちゃん喜ぶよっ」



息を弾ませながら、吉野さんが振り返る



そんなきらきらした笑顔で言われても複雑だ



なんの躊躇いもなく、吉野さんはインターフォンを押した



すぐに春川さんが出てきて、ぼくを見るなり難しい顔をした



どう見ても好かれてはないな



ちょっとがっかりした



ん?



がっかり…何で?



ふるふると頭を振り、変てこな考えを振り払う



「なんで野呂がいるのよ」



難しい顔をしたまま、ぷいっとそっぽ向かれてしまった



「なぎさちゃん!」



吉野さんが春川さんに詰め寄った



「あんまりそんなだと、絶交だよ!」



「ちょっ、早紀!わかったから…」



「全く。もう大丈夫だよね?私帰るからね。明日ちゃんと聞かせてね」



にっこりいつも見慣れた吉野さんの顔だ



彼女はぼくに頭を下げると、颯爽と帰って行った



吉野さん…、もしかしたら一番強いのかもしれない











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