夜遅くなって、黒野有紀はちっぽけなアパートに帰ってきた。
有紀のご自慢の母親「黒野静」は珍しく台所で夜食をつくっていた。静は有名な東帝大の助教授で、知性と美貌を兼ね備えた中年女性だ。細い体格、黒色の瞳、白い肌、きらきらした髪は、明らかに有紀に受け継がれたようだ。だけど、有紀ちゃんの方が痩せていて可愛らしく魅力的で、母親にくらべて手も足も驚くほどすらりと細い。
「有紀、おかえりなさい」
台所の壁を通して、静の少し疲れた声が薄っ暗い玄関に微かに響いた。
「あら、お母さん。今日はお仕事は?」
有紀は少し驚いた声を出して台所に歩いていった。そして、「珍しいこともあるわね。お母さんがこんなに早く帰ってきて…しかもお食事を作っているなんて」
静は娘の可愛らしい魅力的な笑顔を眺めてから、「まぁ、そうね」とうなずいた。
「あ。もう、危なっかしいわねぇ。お母さん…ほとんどお料理なんてした事ないんだから…指でも切ったら大変よ。いつものように私がやるわ」
有紀は幸せそうにニコニコと笑ってから、手際よく母親の手から包丁を取ると「お料理」しだした。静は少しだけ呆気にとられたように立ち尽くして、娘の包丁さばきに見とれてから、インテリらしい顔をした。
「ねぇ、有紀。お勉強の方はどうかしら?きちんと学年トップのポジションをキープしているんでしょうね?」
「……え、えぇ。まぁ……はい」


