有紀は恐ろしくなって全身を小刻みに震わせた。涙が目を刺激したがなんとか堪えてトボトボと席のほうにあるいていった。そして当然のことのように他の生徒達は何ごともなかったように机に向かっているだけだった。
「な、な、な、何よっ。あの野郎!私たちの大事な有紀ちゃんになんてことすんのよっ!」 ふたりは怒りと驚きで眉をツリあげて、
「そうよ、そうよ、そうよ!女の子にとってお顔は大事なもんじゃんよぉ。あんなに強く あおあざ
ビンタして、青痣でもできたらどうしてくれるっていうの?!」
蛍と由香は激しく誰にもきこえないように怒鳴った。
時間はだいぶ過ぎ、もう夜になっていた。蛍と由香は”ヒマ人”らしく、塾の建物の外の物陰に隠れるようにして建物から出てくる生徒達をぼうっと眺めていた。何をしているのか?まさか、お勉強に目覚めて入塾するのか?はたまた「あの野郎」こと塾の講師を襲撃するのか……?
「あ!出てきたよ。有紀ちゃんが…」
由香は声を上げた。そう、ふたりは単に、有紀がでてくるのを待っていたのだ。
彼女はいつものようにトボトボとうつ向き下限で歩いていた。ーあ、マズイ!ふたりはハッとして、有紀の後ろ姿を追った。
だが、このふたり。…正義の味方と呼ぶにはあまりにもオソマツな少女らは、薄暗い遠くの夜空に浮遊してギッと有紀の後ろ姿を睨んでいる魔物・アラカンの存在には気付きもしなかった。アラカンの口元に冷酷な笑みが浮かぶ。
「あれが今度のターゲット、黒野有紀という少女か…」
冷たく低い声が暗闇に微かに響いた。……


