マジック・エンジェルほたる



  もう放課後になっていた。なんとも時間の流れが早いものだ。「少年(物語の主人公が女の子だから少女でもいい)老いやすく学なりがたし。一寸の光陰軽んずべからず」という孔子の言葉が響くようだ。
 たしかに歳をとりやすいし、なかなか学べないものだ。人間とは嵐の中の塵でしかないのかも知れない。…しかも、そうした思考を理解できるのは黒野有紀ただひとりかも知れない。例のふたり組(蛍と由香)には死んでもわかるまい。……
 学校の校門ちかくの通路は帰宅する学生たちでいっぱいだった。当然ながら、皆には、「お友達」がいてワイワイと並んで楽しく話しながら歩いている。「お友達」がいないのはやっぱり黒野有紀ただひとりである。
 この有紀という人物のような存在は、ある意味では、日本中のどこにでもいるかも知れない(頭や美貌の違いはあるだろうけど…)。自分の意見を堂々といえない。もしくは意見などない。自分だけの殻に閉じ籠って、やがて、精神病で入院したりする。そして、自殺したりする。まったく弱々しい。女々しい。人生のレースから逃げてる。
 もっとも有紀には、そうした「連中」とは違って、知性(インテリジェンス)があり美貌がある。「可愛らしくっておとなしい文学美少女」の黒野有紀には、人生哲学がある。…が、孔子が「必ずしも書物を読むことだけが学問ではない」というように学問と実生活には少しも区別がない。その意味からいえば、黒野有紀の頭脳と実生活はかなりのギャップがある。
 つまり、彼女は”学問バカ”なのだ…。
 有紀はいつものようにしんとうつ向き気味で、一人、孤独に歩いていた。そして、可愛らしい大きな大きなおとなしそうな瞳をうらやましそうに下校する学生達に向けた。
 ちいさなちいさな純粋な唇も、白く細長い手足も全身も、おさげ髪も、なにもかもが孤独などんよりとした光に溢れているかのようだ。それはぼんやりとした光の殻だ。