マジック・エンジェルほたる


  蛍は悲鳴を上げながらガバッとテーブルから飛び起きた。そこは自分の部屋だった。テーブルにうつぶして眠っていたのだ。額は汗びっしょりになって、窓からは午後のだらだらした眩しい陽差しがみえている。夢だったのか…?!びっくりしたよ…もおっ!
「…ちょっと、あんた!いい加減にしてよね」
 床に置いた座布団上の由香が呆れまくった顔でそんな蛍に嫌味ったらしくいった。そして右手で前髪をかきあげた。
「なにが、カレー・コロッケ・パン君よ!!なにが苺ケーキちゃん達よ!なに寝言いってんのよ!」
 横にいた妖精も黙っていない。「そうよ、そうよ、聞いたわよ!なにが、”死になさいセーラ!”よっ!!…なにが、”地獄に落ちちゃえ、セーラ!”よ!!……もおっ、知らない!蛍ちゃんなんて大っ嫌いよ!!」
 もおっ。なんにを考えてるのよ、蛍ちゃんってば。「今は作戦会議中だったんでしょ?!」「さくせんかいぎちゅう…?何よそれっ?!どういう意味よ?ネズミの名前?」
「バーカね、蛍は…」由香は無視するように言ってから、タメ息をついて珍しく『ことわざの本』のページをパラパラめくってから蛍に見せて、
「じゃあねぇ、…これっ、何て読む?」
「どれよっ?」蛍は、ジッとページに踊る文字、由香の白く細い指先がしめす『ことわざ』を覗きこんだ。ーえ?えーと……。
 窮鼠、猫を噛む。…と書いてある。蛍は、足りない頭をひねってから、明るい口調で、「そりゃあ、由香ちゃん。キューチュー、タヌキ(狸)をムシバムっよ」
 由香は「なにいってんだがか、この馬鹿蛍!何が、キューチューよ!」とニヤリと皮肉屋らしく馬鹿にした笑いを口元に浮かべた。
「でもさぁ、蛍ちゃんらしいわね。……確かに、鼠って…チューチュー鳴くものね。猫と狸って漢字が似てるし、同じ動物さんな訳だし……。噛むと蝕むは、まったく違うけど…でもお口の中で「甘いもの」を噛んでたらいつかムシ歯(む)になっちゃったりするわけだもんねえ」
 セーラは呆れ顔で、それでも優しい優しいお母さんのような笑顔を浮かべてそういった。「まったく情ないなぁ、こんな漢字も読めないなんてさぁ」