マジック・エンジェルほたる

 蛍があっけにとられて目をやると、彼女は視線を受け止めてニコリとさりげなくいった。「負け犬のあんたよりは」
 蛍は笑顔をみせた。さすがだ!さすが由香ちゃん……嫌味ったらしい。
「まぁ、そうね」蛍は明るい口調で答えた。
 やがて、気絶していた宝林が起き上がって「うう…ん」と頭を軽く振った。由香は弾かれたように父親のもとへ駆け寄った。「パパっ!」
「ははは…。由香、そんなにビックリしたような顔しないで」
「じゃあ、ぶん殴られたって顔はどう?」
「なら、やってみせて」
 由香はその表情をつくり、ふたりはぷっと笑いあった。そしてふたりは見つめ合い強く強く抱き合った。ほんわりほんわりとした抱擁。優しい優しいきらきらした時間が流れては過ぎていった。
 そんな眩しい一瞬……それは平和の瞬間だ。

  次の週の月曜日の昼間。さっさとお弁当をたいらげた蛍と由香は、だれもいない青山町学園の屋上で「フェンス」にもたれかかって話をしていた。
「……いろいろあったわね」と由香。
「そうね。いろいろ…人生いろいろ…ってな感じかなぁ。あははは…」
 ふたりは、もうんなにもかも終わった(エンディング)とでもいいたげな雰囲気で空の青を遠い目付きで眺めながらしばらく黙りこんだ。
 どこまでも透き通るような青い空、ゆらゆらふわふわと浮かぶ雲たち。ほんわりほんわりとした昼間のとき…。ソレハ青春の鼓動だ。
「そうそう、由香ちゃん。そういえばさぁ……かんてーん?!のほうはどうなった?」
「うーん」由香は少し残念な表情になって「…ダメだったわ。…落選しちゃった」と言って、しばらくして魅力的な笑顔を無理してみせた。
「…そう。そりゃあ残念だったわね。でも…まぁ、気にしないで。明日にや明日の雨が吹くっていうっしょ?」