マジック・エンジェルほたる

……キスもまだなのにさぁ…まぁ別にいいけど」
 健三郎はまた鉄仮面のような顔をして、
「…まぁ、私が一代で築き上げた黄江建設株式会社の社長の座を私からバトン・タッチできる「息子」は残念ながら存在しない。私にはひとり娘のお前しか頼れる人間はおらんのだ。なぁ、美里。社長になりたいだろう?」と尋ねた。
 美里はウンザリ気味に頭をかいてから、
「別に、なりたくないね。社長だなんて。それにさぁ、世襲なんていうのは私は反対だね。…会社内に優秀な人材がいるかも知れないのに、それを無視して血族にポストを提供するなんてさぁ…会社のダイナミズムを奪うだけだねっ!…会社は個人の私有物じゃなくて、社員皆のものなんだよ。チャンスは平等に与える……それが社会のルールってものさ」
 と、あたり前のように答えて、前髪をささっとかきあげて、男の子のように微笑んだ。「そんな能書きはいいから…私のいう通りにするんだな!まぁ…女のお前には社長職はムリかもしれぬ。だから、すぐに婿養子でもとれ!そのダンナに社長ポストを与えてやってもいいだろう。一流大学卒の男なら誰でもいい。私の決めた見合い相手とすぐに結婚するんだ」
「な、な、何いってんだよ!私はまだ高一なんだよ、結婚なんて早すぎるよ!ヤンキー娘じゃあるまいし…。学校だってあるしさぁ」美里は慌てた様子から続けて、「それに、女のお前にはムリ!っていうのは偏見じゃないの?!女性蔑視っ!性差別ってもんだよ。男尊女卑なんてのはアナクロニズム(時代錯誤)だねっ」と声を荒げた。
「うるさいっ!とにかくゆうことをきけ!!」
 しばらくの沈黙の後、父はくどくど続けた。「…お前はもうすこし女らしくした方がいい。言葉づかいも、服装も!」
「どういうのが女らしいってなんのさ?どんな言葉づかいが女らしいってのさぁ?どういう服が女らしいってなんのさぁ?」
「欧米のエスタブリッシュメントのお嬢様のようにだ!」
「…あたしは外人じゃないんだけどさぁ」
「……じゃあ、ロイヤル・ファミリーの雅奈子さまのようにだ!しとやかな服、丁重な言葉づかい、マナー、社交ダンス、ピアノ…」
「なにそれ?」
「女は黙って男のいうことをきいてればいいんだ!」