私のいうことがきけないの?!」
有紀は激しく首を横にふった。「いいえ、違うわ。でも…その…」母親の方へ顔を向けると、哲学派の静は、冷酷で、辛辣な感情に溢れた瞳で自分のことをみていたため…彼女は母親の顔を凝視できなかった。
「捨てるなんて絶対に反対よ。……嫌なのよ。かわいそうでしょう?…捨てちゃったら保健所に連れてかれてガスで殺されちゃうかも知れないのよ。だから…」
黒野有紀は恐怖にかられたように、一人でぶつぶつと呟き始めた。ぶつぶつぶつぶつ。静は何をいってるのか分からなかったので、柳眉を逆立てて「はっきり声を出しなさい!」と娘を叱った。
「お母さんは間違っているわ!動物の大事さをわかろうともしないで”捨てきなさい”だなんて!!」
必死に怒鳴った娘をみるのは、静にとって初めてのことだった。静かな控え目な表情、本を読んでいる。少し微笑んでいる。料理している、うつ向いて泣いている、努力している、うつろな瞳で遠くをみつめている……そんな表情ではなく、ひどく沈んだ表情ではなくて、熱心でアグレッシブな娘の表情をみるのは初めてだった。静は驚いて絶句した。
「お母さんっ、私…なんと反対されようと、このワンちゃんを飼うわよ」有紀は宣言しながら、微笑みを見せた。「ね?いいよね?お母さん」
静の”冷酷な顔”はしだいにくずれていき、彼女の黒っぽい瞳に狼狽が溢れ出した。
「……有紀……確かに…あなたのいう通りね。私は間違っているし、動物の大事さをわかっていないのかもね。…動物だけじゃなく人間の気持ちもこれっぽっちも考えてないのかもね。私は……なにもわかってなかったのね」
弱々しくいった。
静は娘の態度になにかハッとして、自分はやけにちっぽけな存在なのね、と感じていた。この数年の黒野静は、自分の信念と努力と頭脳で人生をきりひらき、巧みな戦略で自分を
有紀は激しく首を横にふった。「いいえ、違うわ。でも…その…」母親の方へ顔を向けると、哲学派の静は、冷酷で、辛辣な感情に溢れた瞳で自分のことをみていたため…彼女は母親の顔を凝視できなかった。
「捨てるなんて絶対に反対よ。……嫌なのよ。かわいそうでしょう?…捨てちゃったら保健所に連れてかれてガスで殺されちゃうかも知れないのよ。だから…」
黒野有紀は恐怖にかられたように、一人でぶつぶつと呟き始めた。ぶつぶつぶつぶつ。静は何をいってるのか分からなかったので、柳眉を逆立てて「はっきり声を出しなさい!」と娘を叱った。
「お母さんは間違っているわ!動物の大事さをわかろうともしないで”捨てきなさい”だなんて!!」
必死に怒鳴った娘をみるのは、静にとって初めてのことだった。静かな控え目な表情、本を読んでいる。少し微笑んでいる。料理している、うつ向いて泣いている、努力している、うつろな瞳で遠くをみつめている……そんな表情ではなく、ひどく沈んだ表情ではなくて、熱心でアグレッシブな娘の表情をみるのは初めてだった。静は驚いて絶句した。
「お母さんっ、私…なんと反対されようと、このワンちゃんを飼うわよ」有紀は宣言しながら、微笑みを見せた。「ね?いいよね?お母さん」
静の”冷酷な顔”はしだいにくずれていき、彼女の黒っぽい瞳に狼狽が溢れ出した。
「……有紀……確かに…あなたのいう通りね。私は間違っているし、動物の大事さをわかっていないのかもね。…動物だけじゃなく人間の気持ちもこれっぽっちも考えてないのかもね。私は……なにもわかってなかったのね」
弱々しくいった。
静は娘の態度になにかハッとして、自分はやけにちっぽけな存在なのね、と感じていた。この数年の黒野静は、自分の信念と努力と頭脳で人生をきりひらき、巧みな戦略で自分を


