マジック・エンジェルほたる


 次の瞬間、バーチャル・バトルは開始された。だけど彼女は何もしないで無気力のままディスプレイを空虚に眺めているだけだった。有紀は他人の手の届かないところにいた。自分ひとりの世界に閉じ籠ってしまった。冷たく凍った世界。誰も侵入できない哲学のラビリンス。…
 少女を救うための鍵が必要なのに、螢も由香もだれもいない。誰かが有紀をすくってやらなければならないのに…。しばらくして、
「ダメじゃないか。せっかくお金をいれてゲームがスタートしたのに…そんな風に茫然と画面をみていちゃあさぁ。」
 と、堂々とした態度で、口元に微笑をうかべて明るく「彼女」は有紀に声をかけた。
「……」有紀は少し正気にもどって、少しだけ驚いた様子で静かに振り返った。
 その「彼女」は有紀にまっすぐに近付き、有紀のすぐそばまでいった。たがいの顔の間には数センチの距離しかなかった。あまりの近さに、有紀は「彼女」をみつめ、その声を聞かざるをえなくなった。
「お金がもったいないでしょう?百円ったってさぁ…アイスが一本買えるし…ケシゴムなんて三個ぐらい買える値段なんだよ。だから、遊ぶならおもいっきり遊ぶ、遊ばないなら金なんて投入しないってことだね」彼女はまるで男の子のような口調でいった。「それがルールってもんさ」
 魅力的な笑顔だった。この女の子の名前は黄江(おうえ)美里という。「知性」の有紀や「皮肉屋」の由香や「無邪気」な螢とは人間が違う気がする。いや、雰囲気が全然違う。 かなり背が高く、何かボーイッシュな感じでしかもどこか憎めない可愛らしさがある魅力的な美少女だ。男の子はともかく少しレズっぽい女の子なら憧れてしまうような女の子だ。それは、びっくりするような可愛さだった。