「これで合ってるかな?」

「ああ。サンキュ」

俺は本の表紙に視線を落とすと、頷いた

「立宮君ってこの辺に住んでるの?」

「ん?」

俺は顔をあげると、スイレンを見る

緊張した顔つきで、俺に話しかけている

「皆…立宮君がどこに行ったか知らないって言うから…」

俺はにっこりと笑うと、「携帯、アドレス交換しよっか」と声をかけた

スイレンが嬉しそうな顔をして、大きく頭を上下に振る

「携帯、部屋にあるから。持ってくるね」

スイレンが店の奥に入っていく背中を見送った

俺はコートの下にあるスーツの胸ポケットから、ボールペンを出すと、右手に握った

予約票の用紙を裏返すと、『ごめんな』とだけ書いて、財布から本代を出す

レジの脇に、用紙と金を置くと、俺は本を持って店を後にした

マジで、ごめんな…スイレン

本当は、アドレスだけでも交換したい

だけど、知ってしまったら…俺、たぶん、もっとスイレンを好きになると思うんだ

まだ、俺は一人で頑張らないといけない

もっともっと、自立しないと、な

俺は誰かに甘えちゃいけないんだ

他人を苦しめて、怖い思いをさせた俺が、一人だけで幸せになるなんて、許されるのだろうか?

「ううっ、さみぃ」

俺はコートの襟を立たせると、駅に向かった歩き出した

ごめん

ごめんな、スイレン

好きだよ、スイレン