「客…来ませんねー。」
つまらなそうに楢崎くんがぼやいた



窓の外は一面の銀世界




人の姿は見当たらない




「この雪だし、仕方ないよ。今日は早めに上がっていいよ。帰り道たいへんでしょ?」


閉店まで二時間



今日はもう客は来そうにない



「大丈夫ですよ。近いですし。」



三度目のテーブル拭きを終えた楢崎くんはカウンターに戻ってきて


思い付いたように手を叩いた


「そうだ!
尚子さん、ホットチョコ作ってくださいよ。」



いきなりの提案


「はぁ?」


コーヒー豆の在庫を確認していた手が思わず止まってしまう


「楢崎くんだったら自分で作れるじゃない。」


「そうじゃなくて。
俺は、尚子さんのつくったホットチョコが飲みたいんです。」



強い瞳


「でも…。」


戸惑う私にさらに懇願する

「お願いします。」





はぁー
「仕方ないな。一回だけだよ。」



根負けした私に楢崎くんは子供のような笑顔を見せた