朧気歌

「やめてくださいって!!!!」
その瞬間、聞き覚えのある声が私の耳を貫いた。
…永山沙織!!??
そこには、通りすがりの男子高生達に携帯電話を奪われた沙織の姿があった。

「この男は誰だよ!!彼氏かぁ～？」
「違いますよっ!!返してくださいっ!!!!」
かつて自分が誰とも付き合ったことがないと言ったときよりずっと恥ずかしそうだった。
「この人は慶太を奪おうとしたんだ…」
そう思って通り過ぎようとした。

「返してください!!返してっ…」
「…」
沙織は必死だった。
そんな顔を見ていると、どうも見殺しにはできないように感じられた。

「…」
沙織は携帯電話を取り出し、急いで番号を押した。
"110"
「おい!!見ろよ!!あの女電話してるぜ!!」
「やべぇ!!通報してんじゃねぇの!!??」
そういうと、男子高生達は一目散に逃げていった。


「…」
沙織はまだ怯えた目つきで私のほうを見た。
「…佐藤さん？」
「よかった…大事にならなくて」
「ありがとう…本当に助かったよ…」
私からしてみればただの"高嶺の花"だった彼女。
そんな方が私に「ありがとう」だって？
なんだか信じられなくて、少しくすぐったくなった。

「あの…こんなところで言うのもなんだけど…
　私、桜井君に告白してフラれたんだ」
「うん、知ってる」
「2人が付き合ってたなんて本当に知らなかったんだ。
　でも桜井君は佐藤さんしか見えないみたい」
「永山さん…」
「余計なことしてごめんね。でも2人なら、絶対幸せになれると思う」
「ありがとう…」

なんて潔くていい子なんだろう…
さっきまで他人のフリをしようと思っていたことが急に恥ずかしくなった。