朧気歌

だけど、幸せも長くは続かなかった。
3週間ぐらいたった日だったかな。
「ちょっと来て」
私はいきなり慶太に呼び出された。
「ん?」
あんなに怖い慶太の表情を見たのは初めてで、私は心臓が縮み上がるような感じがした。
慶太は私の腕を引っ張って廊下に連れて行くと、たどたどしく深呼吸をした。
「3組の永山いるだろ」
「うん」

永山沙織。校内で5本の指に入る優等生として有名だ。
見た目もお嬢様っぽく、性格も控え目なのに、それでも自分は誰とも付き合ったことがないと言う。
「勉強に専念したいとかじゃなくて、ただ恋愛ベタなだけなの」
そういった彼女は、また控え目な顔をしていてとても綺麗だった。

「俺…告られたんだ」
「え?」
「昨日の放課後、つきあってください、って。
 もちろん俺断ったよ。でも隠しとくのもなんか怪しいから一応報告しといた。」
私は一瞬救われたような気もしたけど、やっぱり突然の出来事に頭が真っ白になった。
「そうなんだ…」
「心配するな。俺が好きなのは、お前だけ。」
そう言って慶太は私の頭を優しく撫でた。
「じゃあ、また明日な」
「うん、バイバイ」


家に帰ってる間も、私はずっとその出来事が頭から離れないでいた。
…成績も、容姿も、私と彼女じゃ何もかもが違いすぎる…