それから音楽の授業は合唱の練習となった。

伴奏に決まって初めての音楽。

音楽室に入り、まだ先生が来ていなかったから、先生が来るまでピアノを練習しておこうと、ピアノの蓋を開けた。

そして、弾きだしたら、成海くんがこっちに向かって歩いてきた。

何…何……?


成海くんが私の隣に立ったから私はピアノを止めた。


「あ…練習中にごめんな」

私は勢いよく首を振った。

「あのさ。俺、指揮ってやったことなくてさ。

桜木…やり方わかったらおしえてほしいんだ」



成海くんは指揮棒を差し出してきた。


私はそっと指揮棒の持ち手をつかんだ。


4拍子だから…

私は座ったまま振り出した。

「123412」
「ちょ…ちょっと待って。ごめん…もうちょいゆっくり」

あ…緊張して早くなっちゃう。

成海くんに見られていると思うと…

あ…そうだ。


私は立ち上がって成海くんの横に並んだ。

これなら視線を感じずに済む。


私はさっきよりもゆっくり振り出した。


「1 2 3 4 1…」


すると私に合わせて成海くんが人差し指を出して振り出した。



うん。そう、そう…


さすが成海くん…

私は指揮棒を成海くんに返した。


成海くんは指揮棒を持って、今度は一人で振り出した。



そう、そう、えっ…あれ?


そう、そ…あれ?違っ…

私は思わず指揮棒を持っている成海くんの手に、自分の手を添えて一緒に振ってしまった。


「1 2 3 4 あっ」


成海くんの手を触っていることが急に恥ずかしくなり、

私はパッと手を離した。

するとすぐに成海くんが離した私の手を掴んで、自分の手の上に戻した。


「いいよ。一緒に持っておしえてよ」



成海くんが優しく笑ってそう言ってくれた。



だから、先生が来るまで、
一緒に指揮棒を持って、


二人で4拍子の練習をしたんだ。


指揮のリズムよりも、自分の心臓の鼓動が早過ぎて、
リズムが全然合わなくて、

なぜかどんどん指揮棒を振るスピードが早くなってしまっていた。