私は焦って、優くんの髪の毛をかきわけて、耳を見た。


右耳は…ついている。

人工内耳っていうやつがついてる。



左は…



ない。



何もついてない。



転んだ時に取れて落ちたんだ。



私は下をぐるっと見た。


ちょっと離れた所に、茶色の小さな物が落ちていた。




これだ!

私はすぐに拾った。



変わった形をしている…


補聴器って初めて触った。


これってどうやってつけるの?



どうやって使うものなの?



私は優くんに補聴器を見せた。

優くんは、左耳を指さして、付けてくれるのを、待っていた。



優くんの耳に補聴器を入れようとしても、入らない。







どうしよう…





その時、

補聴器をさっと取られた。



「成海くん…」




「ごめん。気づかなくて」



成海くんは手慣れた手つきで、優くんに補聴器をつけた。



「おにいたん。


あいだと!(ありがと)」


優くんは大きな声で言った。




「今、おにいたんって言った?
お兄ちゃんって事?
あの子成海先輩の弟?」



固まっていた一年女子が言った。




「やだ−成海先輩の弟って


“障害者”?


がっかり−」




固まっていた一年女子たちが、自分たちの席に戻ろうと歩きだした。