入院するほどでもなく、私はその日の夕方に病院を出た。



まだ打った頭と体半分が痛い…


お父さんとお母さんは、まだ会計をしていた。


成海くんと、成海くんのお母さんと病院の外にでると、見渡す限りの…たんぼ。



広いたんぼの中に、ど−んと大きな大学病院。


うちの隣の市にあるのは知っていたけど、こんなに大きな病院だったんだ。


「先に車に乗っているわね。
美音ちゃん、大事にね」



「すみません。ありがとうございました」



成海くんのお母さんは駐車場へ歩いて言った。




「大きな病院だね。優くんはここで手術したの?」



私は成海くんに聞いた。



成海くんは笑った。

「違うよ。

優は東京の大学病院で手術したんだ。

人工内耳の手術は、どの病院でもできるわけじゃないんだよ。

特に優を手術した医者は、傷口が小さくてすごく技術が高いんだ。


俺は

優を手術した病院で、医者になりたいんだ」




優くんを手術した病院で…?






東京






東京なんて、



ここからずいぶん遠い…






「東京に行っちゃうの?」










「俺



大学は東京に行く」







成海くんは、遠い空の向こうを見つめて、そう言った。