成海くんが椅子から立って私の足元の方に移動した。

お父さんとお母さんは、成海くんたちに、頭を下げた。


「すみません。

こんな個室まで用意していただいて。お忙しいのに、申し訳ありません」




「いやいや、たまたま部屋がここしか空いてなかったんですよ。
検査結果はどうでしたか?」



成海くんのお父さんは優しく言った。


お父さんは頭をあげた。


「はい。頭も体の骨も大丈夫でした。
ただ、貧血ぎみみたいです。
本当にいろいろ手配していただいたみたいでありがとうございました」




お父さんはまた頭をさげた。




「桜木さん、奥様の名前は、桜木雪(ゆき)さんで間違いないですか?

住所は〇〇〇〇〇、生年月日は昭和○○年〇月〇日あってますか?」


「はい。間違いないです」



「カルテがありましたよ。美音さんがお腹に授かって…

えっと…

20週から、僕がほとんど診察してますね」


「はい。家内が何度も流産をして、やっと初めて安定期に入った時に診察してくれた先生が、とても優しかったと言って

それからいつも先生がいる曜日を狙って受診していたんです。

私も一緒に来た時、とても男前で若い先生だったので、顔をよく覚えていたんです」




成海くんのお父さんは指で数を数えていた。


「診察の日からすると、その頃、僕は27歳でしたね。

研修医時代かな・・

そんな新米医師を…ありがたい話しです。

あの頃はいっぱいいっぱいで…

大事な患者さんを覚えてなくてすみません」