私たちは真正面からぶつかった。

私は、荷物を持っていなかったけれど、相手はチャックを開けっ放しにしたバッグを持っていたらしい。


「ごめん。今、拾うから」

「……藤澤か。いい、俺も悪いし」


藤澤と呼ばれ、え、誰?と相手を見る。

荒岡だった。

今日は良い事でもあったのか、それともこれからあるのか、どこか明るい雰囲気があった。


「藤澤さ、土曜はありがと」

「……ああ、委員会の事」


一昨日の見回りのことだろう。

それにしても、唐突で少し驚いた。

前ふりとかはないのだろうか。

数学の教科書を右手で拾う。

荒岡の教科書は、折り目や汚れが、ほとんどなかった。