日下部が泊まっている部屋に行こうとしたが、入澤は思い止まった。仮にも日下部は女性である。入澤には6つ上の姉がいるので、女性の寝起きという姿にあまり関心がないし、慣れている
しかしいくら日下部と仲が良いからといって、寝起きにわざわざ部屋に行くのは常識がないか、と思ったのである
サイレンの音は止まっていた
「この近くか?」
樹市子のところまで戻る
「いや、この建物らしい。それより…」
神妙な顔でこちらを見る樹市子
「どうした?」
「腹が減った」
「あぁ、そうだね。コンビニで何か調達して食べてから帰ろうか。ここに食堂とかあるのかな?」
樹市子は首を斜めにした。わからない、ということだろう
どうして「腹が減った」とは言えるのに「わからない」は言えないのだろう


