おばあちゃんの到着時間は午後七時。
 でも、それはあくまで予定に過ぎない。おばあちゃんが僕の家に決まった時間に来たことは一度もない。毎回、何かしらアクシデントが起きてしまうのだ。おばあちゃんは「正確な時間」に嫌われたのよ、子供みたいに拗ねているんだわ、と言っていた。
 たぶん、今日もそうなんだろう。
 時計を見ると、針は僕なんかお構いなしに予定の時刻からどんどん遠ざかってゆく。
 そんなことを思っていたら、ママに呼ばれた。

「なぁに」

「おばあちゃんを駅まで迎えに行ってあげてくれないかしら? そろそろ着くって電話があったの」

「わかった。行って来るよ」

 家の外に出ると、もう夜空には猫が爪で引っ掻いたような細い月が浮かんでいた。

「満月の夜、か」

 僕は月を眺めながら、猫マンションのことを考えていた。今日はおばあちゃんに話さなきゃいけないことがいっぱいだ。幽霊のこと、猫マンションのこと、金雀枝の箒のこと。

 そんなことを考えながら、僕は夜の空気に靴音だけを響かせ駅へ向かった。