繁さんが、ちんぷんかんぶんの言葉で何やら真剣にあたしに話しかけるのを聞いて、ジャックが気をきかせてね、

『千鶴子、俺は先に帰るよ』

って行っちまってさ……

これから二人で今日のお祝いに一杯やろうって言ってたのに、あっさりしたもんだよ……

で、あたしは繁さんと夜のパリの街に残された。

繁さんは目を輝かせてね、是非今日のお祝いをさせてくれって。

二人で目に付いた店に入って、シャンパンで乾杯して……

コンサートの興奮もそっちのけでね、繁さんと次から次へと色んな話をしたね……

繁さんの生い立ちや、フランスに来たいきさつ、今の仕事……

気が付くと、もう閉店の時間でね、店を追い出されて、また二人で話しながら歩いて……

あたしのアパルトマンの下まできた。

その頃あたしはジャックと同じアパルトマンに住んでたのさ。

あたしが二階で、ジャックが三階。

興行の仕事は何かと不規則だろ?

近くに住んでると、色々便利でね。

ふと見上げるとジャックの部屋にはまだ明かりがついてた。

これから訪ねていこうか、祝杯も挙げたいし……

なんてぼ~っと考えてた。