もてまん




『本当に好きな人と最初のセックスをするべきだ』



と、舞に語った千鶴子。

僕達のランデブーをどんな気持ちで見守ってくれていたんだろう。

千鶴子は増田の愛を知りながら、それを受け入れることのできない自分を責めていた。


『気丈な方だから……』


と言っていた綾の声が、繁徳の中で木霊する。


「あんたは、あたしが何でフランスくんだりまで出かけていったのか、って思ってるだろうね。

あたしにとって、フランスはもう一人のあたしがいる場所だったんだよ。

何にもとらわれない、自由な在るがままのあたしがいるね……

あんたに会って、それを想い出したのさ」


微かな、千鶴子の消え入りそうな声がスピーカーから漏れる。


「最後に、繁徳、ありがとう。

あんたに会えて、本当に良かった。

舞ちゃんと仲良くね。

死ぬまで愛される、そんな男になるんだよ。

それがあたしの<もてまん>の条件だからね」


(死ぬまで愛される男になれって……)


繁徳の脳裏に、キラキラと手を振る千鶴子の姿が浮かんだ。


目じりに皴をいっぱい作って笑う、千鶴子の嬉しそうな顔。


(俺も千鶴子さんに会えて、本当に良かった。

沢山の愛を、ありがとう)


繁徳はスピーカーから流れる無音の響きにハッと我に帰ると、ステレオからCDを取り出し、大事にケースにしまった。



このCDは天国からの千鶴子の声だ、と繁徳は思った。