「でもね、人生ってのは、本当に偶然が偶然を呼んで押し流していく、そんな河の流れのようなものなんだよ。
いつその偶然が自分の所に押し戻されてくるかわからない。
あたしにとって、その偶然ってのはね、あいつが増田の実の兄だったってことなのさ。
全く増田は、茂って名前だけでも厄介なのに、何であんな奴の弟なんだろう……
あいつと増田は十歳の歳の差のある兄弟でね。
そんな関係だから、増田があたしとあいつとの関係を知っていたとは思わない。
でもね、増田の顔を見ると思い出しちまうんだよ、あいつの勝ち誇ったような顔をね。
増田正、それがあいつの名だよ。
嬉しいことに早死にしたそうだがね」
千鶴子の秘密。
千鶴子の語気は憎しみに溢れていた。
後戻りできない過去の、たった一度の過ちが、自分に押し戻されてきた。
消え去れない憎しみ。
増田とのわだかまり。
繁徳は胸が苦しくなった。



