手取り足取りで、書類の書き方を教えてもらってね。

そんなこんなで半日ほど窓口に居座っていたら、奥からフランス人が出てきてね、

『シャンソンの勉強に行きたいって言うのはあなたか?』

って聞くのさ。

こっちは、まっさらな自分をさらけ出して、教えを請うてるところだろ。

思わず、

『はい』

って答えてた。

その人は、

『向こうにピアノがあるから、ひとつ歌ってみてくれないか』

ってあたしに言うのさ。

なんか、歌わないとビザが貰えないような気がしてね、あたしは素直に彼のあとに着いていった。

窓口の奥に、ちょっとしたスペースがあってね、そこにピアノが置いてあったんだよ。

きっと、ちょっとしたパーティーとかをする場所だったんだろうね。

まあ、大使館だから……

で、歌ったのかって?

こう見えても、一応、クラブで歌ってるセミプロだよ。

弾き語りでね、ピアフのラ・ビアン・ローズを歌ったのさ。

クラブでも、一番うけが良い曲だったからね。