「自分が親になってみて、なお更、そう思う。

寄宿舎に移った時、学校の住所に住民票を移して、神父様が後見人になってくださった。

卒業までずっと親代わりで、色々気にかけて下さったの。

家にいる時より、ずっと幸せだった。

大学へ行って、会社に入って、父さんと出会って結婚して。

同じ東京いたんですもの、連絡しようと思えばいくらだって出来た筈なのに、一度も両親から連絡はなかった。

きっと、あたしが挫けて助けを求めてくるのをじっと待っていたんだと思うわ。

そんなの愛があるって言える?

今のあたしに置き換えて考えても、そんな関係ありえない」


幸子はきっぱりと、そう言い切った。


「でも、今頃は婆ちゃんみたいに年寄りになってるかも……」

「あたしの両親はお金持ちだったから、きっと大丈夫よ。

ケア付の老人ホームかなんかに入って、我が儘言って暮らしてると思う」


「なんか淋しいね」


「そうね。

でも、母さんみたいに、ここまできちゃうと、こじれた関係は修復不可能よ。

舞さんが、母さんみたいにならないことを願うわ」


幸子はそう言って、淋しそうに笑った。


正範は彼女の側で、繁徳と一緒に、じっとその話しを聞いていた。

彼女を見つめる彼の目は、優しさに溢れていた。

彼の中では、今までの妻の苦労を労う気持ちと、そんな彼女を誇りに思う気持ちが同時に湧き上がり、今までよりも一層、妻を愛する気持ちが深まっていたのだ。


(大丈夫、その代わりに、母さんには父さんがいる。

そして俺も……)