六階。



今回はナースステーションに立ち寄り、繁徳は面会名簿に名前を記した。


〈黒澤繁徳〉


舞はその下に、自分の名前だけを書き込んだ。

六〇八号室の扉を引き開ける。

誰もいない。

ベットは空だった。


(千鶴子さん、何処へ行ったんだろう)


検査にでも出ているのだろうか、と繁徳は頭をひねった。

増田が帰ったばかりだというのに事情が呑み込めない。


「ちょっと、ナースステーションで聞いてくるよ」


繁徳は確かめるべく一人病室を出た。

ナースステーションにも人がいない。

繁徳は、カウンター上の呼び鈴を鳴らした。

カチッと扉の開く音がして、奥の部屋から看護婦さんが一人出てきた。

麗だった。


「あら、繁徳くん、いらっしゃい」

「あの、千鶴子さんが部屋にいなんですけど」

「……」


麗が無言で廊下の向こうを指差した。

長い廊下の遥か向こうに、手すりに掴まりながらゆっくりと歩く人影がある。


「自主リハビリよ。一昨日から」

「増田さんの言った通りだ……」


繁徳は、その様子を呆気にとられて見つめていた。