「倒れた時は、しまったって思ったんだけどね。
大丈夫、あたしはまた元気になるよ。
幸い、今までの規則正しい生活のお陰でね、今回の発作はそう重篤なものじゃなかったらしいし。
七年前は、バイパス手術を受けてね、もうあと何年生きられるかって状態だったんだけどね。
それでも、この通りに元気になったんだ、大丈夫だよ」
「千鶴子さん、あたしの為に戻って来てくださったんですか?」
舞が消え入りそうな声で尋ねた。
「あんたには、まだあたしの助けが必要だからね。
それが、今のあたしの生きる意味でもある訳だしね。
七年前の手術の後、あたしゃもうあのマンションを売り払って、大磯か伊豆かあたりのケア付老人マンションへ隠匿しようと思ったのさ。
蓄えも底を突いてきてたしね。
病んだ身体で、もうがむしゃらに働くこともままならないし、一人暮らしが恐かったし。
そうしたら、あの店のオーナ、昌子さんがあたしに契約を申し出てくれたのさ。
あたしのステージをいつも最前列のテーブルで聴いてくれてる、あのご婦人だよ。
渋谷にビルをいくつも持ってる金持ちでね。
彼女がね、あたしのマンションを担保に毎年四百万を融資してくれるってね。
もし、あたしが二十年以上生きたら、彼女に儲けは残らない。
十年そこそこなら、マンション売って少しは手元に儲けが残るって計算さ。
加えて、あの店での年四十回のステージをこなすこと。
その為の体調管理を怠らないこと。
年四十回を無事にこなせば、その分の給料が支払われる。
もし、こなせない場合は、ペナルティで百万が融資額に加算される。
この七年間、あたしはその契約のお陰で生きてこられた。
最初の一年は年四十回のステージはとても無理だったけど、次の年からはなんとかこなせてきた。
彼女にとっては、お金は二の次なのさ、金持ちだからね。
あたしはそんな彼女の友情に支えられて生きてこれた。
今度はあたしが、誰かの支えになる番だよ。
順番だからね、こういう事は」
千鶴子は、真っ直ぐに舞を見て微笑んだ。



